オペレーション
operation
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この記事は眼科の経営について眼科専業コンサルタントの西條が執筆しています。
少子高齢化が叫ばれて久しい日本においては高齢者が大きな部分を占める眼科にとって追い風であると勘違いされている先生が少なくありません。
私のセミナーでは以前からお伝えをしているのですが、少子高齢化は眼科にとっても逆風の減少なのです。
少子高齢化がなぜ眼科にとっても逆風なのか、これは偏に人口が減少するからです。
もう少し詳しくお伝えするとグラフにある通り、65歳以上の老齢人口の絶対数はそれほど増えず、年少人口および生産年齢人口がどんどん減少していきます。
ですから、少子高齢化の実態としては日本の人口が減少する中で老齢人口の割合が増えていく、ということです。
この状況を眼科経営に落とし込んで考えると、老齢人口の絶対数は横ばいですから高齢の患者さんが自然と増加することは無く、64歳以下の人口の絶対数の減少に合わせて患者数も減少していくことが容易に読み取れます。
ここまで読んで一部の先生が思われたように受療率に変化があった場合は人口推移と眼科患者数の推移にはズレが生じることもありますが、人口減少の勢いを覆せるほど受療率が高まることは残念ながら無いでしょう。
ですから少子高齢化は眼科にとっても逆風なのです。
人口の減少に伴って眼科患者数が減少すると二極化が進みます。
「人口減少による患者数の減少なのだからどの眼科も少しずつ患者数が減少する」と考えてらっしゃる先生もいますが実際は二極化が加速するでしょう。
これは集患力の差によって患者数の減少に差が出るためです。
どの地域にもいつも混雑して患者さんが途切れない人気クリニックがありますが、そのような集患力が強いクリニックは全体的な患者数減少局面においても持ち前の集患力から地域の患者さんを吸い上げ、一定の患者数を維持します。
その一方、周りのクリニックは眼科全体における患者数の減少ペースより速い速度で患者さんが減少していく状態となります。
さらに集患力が強いクリニックは医業収入も豊富ですから設備や広告宣伝費に投下できる費用が大きく、ますます集患力が強くなります。
このようにして二極化が加速していくのです。
先ほど少しお伝えした受療率を見てみましょう。
2020年のデータまで出ているのですが、2020年はコロナ元年であり、受療率の推移を確認にそぐわない大きな変数があるため2017年までの推移を掲載します。
ご覧いただくとわかる通り、大きなトレンドとしては結膜炎や白内障の受療率が低下している一方、緑内障や涙器の障害の受療率が上昇しています。
受療率増加の要因としてはPCやスマートフォンによるドライアイの増加、緑内障への啓蒙活動により患者数が増加したことと、診断を受けた方の累積だと考えられます。
受療率減少の要因としては年少人口の減少により結膜炎患者数が減少、日帰りでの白内障手術実施施設数の増加により白内障の診断を受けてから手術までの期間短縮が白内障受療率の減少に繋がったのでは、と考えられます。
これらの受療率の変化の要因を無視するわけではありませんが、より重要なことは眼科全体での受療率にそれほど大きな変化が無い一方で、疾患毎の需要率は大きな変化があることを理解しておくことです。
白内障の発症率は変わらないなど医学的な側面を一旦横に置き、経営的な側面だけを見ると受療率が低下している疾患は患者数の減少が見込まれる領域であり、受療率が増加している疾患はその逆です。
自院の特色や力を入れる疾患を考える場合はこのように眼科全体の流れを把握しておくと良いでしょう。
「医は仁術」という言葉を否定するつもりは全くありませんが、医院経営の実際として売上げが不足すれば経営が破綻してしまうことも事実です。
適切な医療を提供するためにも必要十分な売上げを確保しなければいけません。
まずは眼科に限らず全ての医院経営の基盤となる
医業収入=レセプト枚数×レセプト単価(=1回あたり診療単価×1月あたり平均通院回数)
を抑えておきましょう。
売上げを上げるための方法は患者数を増やすしかない、と半ば強迫観念的に感じてらっしゃる先生もいらっしゃいますが、売上(医業収入)を増加させる方法は患者数を増加させるだけではありません。
先ほどお伝えした通り、医業収入はレセプト枚数(患者数)、1回あたり診療単価、1月あたり平均通院回数の乗数ですからどれか1つの要素が高くなるだけでも医業収入の増加に繋がります。
例)
年間レセプト枚数15,000枚×単価500点×平均通院回数1.1回=82,500,000円
単価を20点上昇させた場合:15,000×520×1.1=85,800,000円
通院回数を1.2回に上昇させた場合:15,000×500×1.2=90,000,000
レセプト枚数を年1,000枚(月約84枚)増加させた場合:16,000×500×1.1=88,000,000円
全て実施した場合:16,000×520×1.2=99,840,000円
自院にとって売上げを上げるためにはどのような方法が適しているのか考えていきましょう。
当たり前の話ではありますが、診療報酬は国の定めによって決まっていますからこれまでと同じ医療行為を値上げするようなことはできません。
とは言え、診療単価を上げるために不要な検査や処置をしましょうということでもありません。
診療単価を上昇させる方法としては、今までに拾えていない患者ニーズをキャッチし自院では実施できていなかった検査や処置を自院に取り込む、あるいは人員体制や検査フローを見直して検査予約を入れやすくする、といった方法が考えられます。
一つ目はアレルギー検査を積極的に訴求する、緑内障の患者さんにSLTを提案する、あるいは自院の治療として舌下免疫療法を取り入れる、などです。
一つ一つの診療の医学的な評価は先生方にお任せしますが、自院で実施している検査や処置が患者さんに認知されておらず取りこぼしているケースは少なくありません。
新たな治療を取り入れることはハードルが高く感じられる先生も多いと思いますが、既に実施している治療の周知を強化することは難しくないでしょう。
宝の持ち腐れとしないためにも情報提供はしっかりと行いましょう。
先生方が感じてらっしゃる通り、不要な患者さんに頻回に通院を指示すると満足度が低下し患者離れを起こします。
そのため売上げだけを見て頻回に通院させるのでは無く、次回通院が必要な患者さんに必要性を理解していただくようにしましょう。眼科の場合高齢者が多いので本人に通院するつもりがあってもそのこと自体を忘れてしまい通院が途切れることが珍しくありません。
医業収入に直結する部分ですので、次回通院が必要な患者さんに必要性を理解してもらう、次回通院指示を忘れられないようにしましょう。
単価は上げすぎると集団的個別指導→個別指導という流れで指導を受けますし、通院回数もお伝えした通りあまり頻回に通院させることは推奨できませんが、レセプト枚数は増加させて悪いということはありません。
患者数の増加手段はWEBと口コミです。
(眼科なのにWEB?と感じられた方はこちらもお読みください)
しっかりとWEBマーケティングを強化し、口コミ増加の施策を行うことで新規の患者数が増加していきます。
満足度を高めることで再診率を高められますし、SNSを効果的に使用することで第一想起されやすくなり最初診率の増加を狙うことができます。
これらの取組みもレセプト枚数の増加に有効です。
レセプト枚数の増加は様々な手法がありますのでマーケティングに関連する記事をお読みください。
レセプト枚数が増加してくると待ち時間が長くなり満足度の低下を招きます。
また、患者数の増加に伴って労働時間が増える、業務負担も増加する、など労働環境が悪化して従業員満足度も低下する恐れがあります。
何より院長先生の負担が大きくなり、気づかない内に診察の雰囲気が悪くなって満足度を低下させる、ということもあります。
そのためクリニックの状況に合わせて効率化にも取り組んでいきましょう。
診察時間を短くするために早口で話をする、あるいは説明を省く、などの対応は患者満足度の低下に繋がるためお勧めできません。
満足度を維持したまま効率化を実現する方法も様々なものがあり、ここでは書ききれないため効率化についてはオペレーションに関連する記事をお読みください。