マネジメント
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突然ですが、院長先生は今月、スタッフさんの話を何分くらい聞きましたか?
恐らく「毎日話を聞いているよ」「診療中もよくコミュニケーションを取っているよ」と感じられる先生が多いと思います。
では、スタッフさんの趣味や、直近行った旅行先、最近の悩み事は把握できていますか?
こう質問をするとほとんどの先生が回答に困るのでは無いでしょうか?
知らないことを責めたいわけではありません。先生方が思っている以上にスタッフさんの話を聞く機会が少ないことに気づいていただきたいのです。
突然スタッフさんから改まった態度で「先生、ちょっと良いですか?」と切り出されると多くの先生がドキッとされると思います。私もコンサルティングの現場で「西條さん、ちょっと良いですか?」と言われるとドキッとします。
それはその後に続く言葉が大抵の場合、ネガティブな内容だからです。
多くの院長先生が
「先生、ちょっと良いですか? 来月でここを辞めようと考えているんです。」
「先生、ちょっと良いですか? 〇〇さんとの関係に悩んでいて辛いんです。」
このような言葉を聞いて「急にそんなことを言われても…」と感じたことがあるのではないでしょうか?
確かに先生方からすると、寝耳に水の急な話です。
しかし、スタッフさんからするとそれまでにずいぶん悩んでいるケースが多く、場合によっては数年間悩んだ末の決断だったりします。
このようなことが起こる背景には先生とスタッフさんのコミュニケーション不足があります。
プレイングマネージャーとしての要素が強い院長先生は、毎日の診療に加え、スタッフの労務管理、経営計画の策定、税理士や外部業者との打ち合わせなど多忙な日々を送っています。
そのため、気が付けばスタッフさんとゆっくり話をしたのが1年以上前、ということが珍しくありません。特にコロナ禍以降、この3年ほどは会食の機会も設けられず、診療時間以外でスタッフさんと会話をしていない、という先生もいらっしゃいます。
このような状況にあるため、先生の知らないところでスタッフさんの悩みは深く、大きくなっていき、やがて「先生、ちょっと良いですか?」という背筋が寒くなる一言へと繋がるのです。
実際に話を聞いてみると、「なんだ、そんなことなら早く言ってくれれば良かったのに…」と感じられることが多いと思います。
私のところに相談に来られるスタッフさんも
「以前に〇〇が壊れたから購入して良いか聞いたのに、まだ回答をもらえないんです…」や
「紹介状の返書をお願いしたのになかなか書いてもらえないんです…」といった、“そんなことはため込まずに早く先生に相談すれば良いのに”という内容が少なくありません。
こういった小さな要素でも、時間が経つにつれ「先生はきちんと話を聞いてくれない」→「先生は私たちの苦労を理解してくれていない」→「先生は自分のことばかり考えている」という不満に変化してしまうのです。
ですから、先生方は問題が深く、大きくなる前にしっかりと話を聞いてあげていただきたいと思います。
クライアントの先生で上手にスタッフさんの話を聞いてらっしゃる先生は、毎月、全てのスタッフさんと5~15分程度の短時間面談を実施されています。
診療中の患者さんが途切れたタイミングや、診療終了後のちょっとした時間、手術が早く終わった時間を利用して、毎月1回スタッフさんと会話をすることで、問題になる前の段階で処理されているのです。
毎月面談をすることで、院長先生とスタッフさんの間でしっかりとした人間関係が構築され、結婚や妊娠といったプライベートに関わる情報も早い段階で院長に届くようになり、採用や教育も事前に計画立てて行えるようになってらっしゃいます。
このような形で少しの時間を投資することで将来の問題の芽を摘み取ることができ、結果として半分以上の問題が片付く、というわけです。
スタッフさんとの面談を始める際に気を付けていただきたいヒアリングスタイルをいくつかお伝えします。世の中には多くの「聞き方」に関する情報がありますので、それらも参考にしていただくと良いでしょう。
〇〇さんはネガティブで細かなことも気にする人だから、話半分に聞いておこう。
〇〇さんは大げさに話す人だから、きっとそれほど大きな問題では無いはずだ。
などの形で先入観を持って話を聞いてしまうと、相手の伝えたいことを正しく聞き取れず、せっかく使った面談の時間を無駄にしてしまいます。
先入観を持たず、できるだけフラットな気持ちでスタッフさんの話を聞いてあげましょう。
その上で、そのスタッフさんの発言が事実なのか、どの程度の重さの内容なのか、を明らかにするために、事実と感想を切り分けて聞き取りを行うと良いでしょう。
例えば、「〇〇さんはいつも私に厳しくするんです。」という訴えがあった場合、
「〇〇さんがあなたに厳しいんだね。なるほど。どんな時にそれを感じるの?」
「どれくらいの頻度で発生するの?」といった形で、発生している事象を具体的に聞き取ることで、対処が必要なのか否かを適切に判断することができます。
クリニックが大変な状況なのに、どうして自分の都合ばかり話すんだ。
院長としてできるだけのことをしているのに、どうして理解しないんだ。
など、自分の立場を固持したまま、ヒアリングを行うことも良くありません。
先入観を持って聞く、というものと似ていますが、こちらは時として自分(院長)のことを理解してくれない、と怒りの感情に繋がることがあるのでより注意が必要です。
勿論、院長先生ご自身の都合や状況を後回しにして、スタッフさんの都合を最優先にしてください、と言うつもりはありません。面談をする際には、一旦自分の都合や状況を横に置き、まずはスタッフさんの言い分を理解するように努めていただきたいのです。
相手の言い分を正しく理解できて初めて自分の都合と比較し、優先順位を決めることができます。
「こんなにもスタッフのためにがんばっているのに…」という気持ちはひとまず横において、この人は何に困っているのだろう、何を伝えたいのだろう、と言う心持ちで話を聞いてください。
これは話の聞き方のテクニックの部分になりますが、面談をするスタッフさんの目を見てコミュニケーションをしてください。
間違ってもPCを見たまま、スマートフォンを触りながら話を聞いてはいけません。
普段、先生方はカルテ入力をしながら患者さんの話を聞くことに慣れてらっしゃるので、PCやスマートフォンを操作しながらでも正しく話を聞くことができるかもしれません。
しかし、スタッフさんからすると「先生はきちんと自分の話を聞いてくれているのだろうか?」と感じてしまい、話しても無駄だな、と思われてしまう恐れがあります。
一度このように思われてしまうと、次回以降の面談でその方の本音を聞くことが非常に難しくなり、関係性の構築が困難になってしまいます。
必ず目を見て、面と向かって話を聞くようにしてあげてください。
中には記録を取りながら面談をしたいから、PCを操作しなければ、という先生がいらっしゃいます。このような場合は、スタッフさんに「話を忘れないようにメモを取っても良い?勿論、誰にも見せないし、〇〇さんとの面談以外には使わないから」のような形で了解を取られることをお勧めします。
了承を取ったとしても、メモを取られていると思うと身構えてしまい、話しづらく感じる方が一定数いらっしゃいますので、話づらそうにしている場合は、面談が終わった後で記録を残されると良いでしょう。
面談を重ねるとスタッフさんがプライベートな相談もしてくれるようになる場合があります。その際に注意をしたいことが、興味本位で話を聞いてはいけない、ということです。
普段、聞くことが無い他人のプライベートな話を聞くと、ついつい興味が出てしまい、こちらから話を聞いてしまう、という方がいらっしゃいます。
このようになってしまうとスタッフさんは心を閉ざしてしまい、話をしてくれなくなります。無関心はいけませんが、相手の立場に立って適切な態度で話を聞いてあげてください。
スタッフ面談を始めるにあたり、回数を重ねるまではなかなか話をしてくれない方もいらっしゃいます。このような場合、まずはご自身の話から開示してあげてください。
例えば「この前の連休は子供と公園に遊びに行ったんだ。すごく暑くて二人とも汗びっしょりになってしまったよ。〇〇さんは普段お休みの日はどんな感じで過ごしているの?」のような形で、先に自分の話をしてあげると良いでしょう。
いきなり「〇〇さんは普段のお休みの日はどんな感じて過ごしているの?」と切り出すより話が広がると思います。
自分の話はあくまでも2割程度に留め、8割は相手に話していただくと良いでしょう。
始めの内は先生が話す時間が長くなってしまうことがあるかもしれませんが、スタッフさんが話してくれるようになるにつれ、徐々に会話の割合を変えていくとスムーズにヒアリングを行うことができます。
相手の発した会話だけでは無く、相手の姿勢や態度、声のトーンなどから相手の状態を読み取るようにすることで、より深く相手の状況を理解することができます。NLPの世界でキャリブレーションと言われるテクニックです。
意識的、無意識に関わらず、先生方は普段から、患者さんの表情や声のトーンから症状の重軽を読み取ってらっしゃるので、一般の方より慣れたテクニックだと思います。
言葉では「大丈夫」と言っていても表情や声のトーンが暗かったり、目線が下を向いていると「まだ問題は解決していないな…」と察することがこれに当てはまります。
さらに細かなテクニックとしては「アイ・アクセシング・キュー」というテクニックがあります。目線の動き方で相手の考えていることを読み取る、というテクニックです。
このテクニックは先ほどお伝えした例の
例えば、「〇〇さんはいつも私に厳しくするんです。」という訴えがあった場合、
「〇〇さんがあなたに厳しいんだね。なるほど。どんな時にそれを感じるの?」
「どれくらいの頻度で発生するの?」といった形で、発生している事象を具体的に聞き取る
というようなシーンで活用できます。
目線の動きでそれが構築されたイメージなのか、記憶されたイメージなのかを探ることができるからです。詳細は長くなるので省きますが、一般的に「右が構成された情報」「左が記憶された情報」にアクセスしている時の目の動き、と言われています。
ですから、右上を見ながら先ほどの例のように”過去の出来事”として話をしている場合、目の動きから考えられるアクセスしている情報と、言葉で話している内容に食い違いが発生しているので、本当に起こった事象なのか、しっかりと確認する必要があります。
ここまでは習得する必要が無いとしても、短時間で結構ですので定期的に面談を行うことで問題の多くを未然に防ぐことができ、医院経営の後退を防ぐことができますので是非取り組んでいただければと思います。