マネジメント
management
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クリニック経営においてどのような組織を目標とすべきか、と質問を頂戴することがあります。
今回は先生方に共通する悩みでもあるチームビルディングについて、ティール組織、という考え方をベースに考えてみたいと思います。
2014年にFrédéric Lalouxの著書「Reinventing Organizations」で紹介された、組織の分類の中の一つです。従来の組織とは異なる新しい組織の考え方とされており、このタイプの組織では参加するメンバーは自主的に成長しながら成果を生み出す、とされています。
レッド:個人が支配する組織
この組織は1人の支配者が力や恐怖でコントロールする組織とされ、組織タイプの中では原始的な組織とされています。
アンバー:軍隊的な上意下達の組織
階層がはっきりと決まっており、上下関係によって秩序が保たれている組織です。
トップダウンで指示が出され、それに従って行動するため安定的な組織ですが、トップの枠を超える成果を生み出しづらく、変革が生まれづらいとされています。
オレンジ:成果により昇進可能な階層構造の組織
階層はあるものの、成果により昇進可能な組織です。
一般的な企業に見られるタイプの組織で、成果=昇進という報酬があるため、個人の成果が発揮されやすく、アンバー型の組織に比べると変革が起こりやすいとされています。
グリーン:ボトムアップ型の組織
階層は残るものの、個人の多様性が尊重される組織です。
意思決定はボトムアップ型に行われるため、組織の構成員は主体性を持って行動することができます。ただし、決定権はマネジメント側が保有しています。
ティール:平等で構成員が目的に向かって行動する組織
権力が集中するリーダーはおらず、構成員が必要に応じて意思決定する組織です。
構成員が意思決定できるため、柔軟性があり、変革が起こりやすい組織ですが、構成員が組織の目的を明確に理解している必要があります。
今まで様々なクリニックを拝見してきましたが、クリニックにおいては意思決定や昇進は院長が決定するアンバー型の組織が多く、その次に評価制度やそれに基づいた昇級制度が存在するオレンジ型の組織が多いように見受けられます。
これは、一連の医療行為における意思決定は医師個人に委ねられており、看護師を始めとするコメディカルはその決定に従って行動する、という産業構造に由来しています。
あくまでも私個人の考えですが、一般的なクリニック経営においてはオレンジもしくはグリーンが適していると考えております。
ティール型組織の話をすると、ティール型組織が上位の組織で、進化した組織と解されることが多いのですが、クリニック経営においてもティール型組織が適しているか、というとそうでは無いと見ることができます。
クリニックで勤務するスタッフの大半が女性であり、ライフステージの変化により産休・育休・退職といったイベントで職場を離れることが多く、長期的な勤務を前提としていないことが一つの要因です。
ティール型組織の要素として、組織の構成員が組織の目的を理解している必要があるのですが、構成員間で大きなズレなく目的を理解させるには一定の時間が必要で、入退職による人員の入れ替わりがある組織ではそこにかかる負担が大きくなってしまいます。
また、医療は他業界と比べて需要と供給のバランスが崩れづらく、大きな変革をしなくとも経営していける点もティール組織である必要が無い理由の一つです。
人口は緩やかに減少に向かっていますが、中期的には患者数が大きく減少する恐れが少なく、医療は独占業務であるため他業種からの参入が無いため、安定した経営が可能です。
アンバー型の組織であってもクリニックの経営は可能なのですが、アンバー型組織の弱点でもある、トップの器を超えた組織にならない、という点でオレンジ・グリーンを目標とした方が良いと考えています。
器、と聞くと、院長先生方の人間としてのキャパシティが狭いように聞こえてしまいますが、そうでは無く、どれほど優れた人間であっても1人の人間が出せる出力は限られている、ということです。
例えば、院長が急病で指示が出せない、同時多発的に問題が発生している、などの状況に陥った時、トップダウン型の組織では容易に組織が硬直してしまいます。
ですから、リーダーなどを任命することでヒエラルキー型の組織を構築し、権限移譲を進め、意思決定における冗長性を持たせることをお勧めします。
この際、リーダーに任命する方の人間性として、院長に従順であることよりも「まず、やってみる」という即応性を持つ方を任命されることをお勧めします。
即応性がある方がなぜ、リーダーに適しているのか、はまた別の機会に述べますが、この点は重視していただいて損の無い資質です。今後、リーダーを任命される際の基準に加えていただければと思います。